萩本
スマートフォンは、ここ1~2年の間に急速に広まりつつあります。
スマートフォンは既存のフィーチャーフォンと違い、購入してすぐにメールなどが使えるわけではありません。最初にアカウントの取得、各種設定などを行って初めてその能力をフルに生かせるという点では、携帯電話よりむしろパソコンに近い道具だと言えます。
現在、多くのユーザーがフィーチャーフォンからスマートフォンに乗り換えているわけですが、その中には当然パソコンが苦手という人もおり、この最初の設定がユーザーにとっては大きなハードルとなる可能性があります。
各キャリアでも、スマートフォンを購入して最初に行う設定作業についてスタートアップガイドなどを作成し、このハードルを下げる努力をしているようです。
今回は、実際のユーザーがスマートフォンのスタートアップ作業を行う際、どのような問題が発生するのかを見てみました。
■調査のやり方
3名のスマートフォンを持っていない被験者(Aさん:47歳/女性、Bさん:33歳/女性、Cさん:72歳/男性)に、スマートフォン購入直後に行う設定作業を、説明書を見ながら実際にやっていただき、その様子を観察しました。
使用したスマートフォンは、SAMSUNG Galaxy S II(docomo)です。この製品で、「~@docomo.ne.jp」というメールアドレスを使用するためには、spモードというサービスを利用する必要があります。spモードの機能は「spモードメール」というアプリをAndroid Marketからダウンロードすることで利用可能になりますが、ダウンロードするためにはまずGoogleアカウントが必要となります。
整理すると、少なくとも以下の2つの準備作業が必要ということになります。
- Googleアカウントの取得
- 「spモードメール」のダウンロード
また、これに加えて、メールアドレスを自分の好みのものに変更する操作も行っていただきました。
■主な結果
3名の被験者を観察した結果から、全部で27個の問題を発見しました。ここでは、その詳細の説明は割愛させていただきますが、いくつか特徴的な結果をご紹介いたします。
●高齢者にとってはハードルが高い?
72歳のCさんは「これからはスマートフォンぐらい使いこなせないといけない」とおっしゃる、年齢の割には機器に対する使用意欲の大変高い方でした。しかしながら、タスクの途中でしばしばつまずき、スタッフから助言をもらう必要がありました。年齢的に若いAさん、Bさんとはつまずきの大きさに差を感じました。
今回は被験者3名なので結論づけるのは難しいですが、高齢者にとってスマートフォンのスタートアップ作業は、かなり難易度が高い可能性があります。
●登録情報の意味がわからない
説明書(START UP GUIDE)には、spモードメールのアプリをダウンロードするためにGoogleアカウントが必要であることは書かれており、被験者の方たちはその記述に気づいていました。
しかし、いざ登録情報の入力作業を始めると、Googleのメールアドレス「~@gmail.com」はこれから登録するのに「端末を購入した時点で既に割り当てられているアドレスだと思う」という発話がありました。逆に「~@docomo.ne.jp」のアドレスを変更する際に必要なspモードパスワードは、既に初期値が決まっているにもかかわらず「これから好きなパスワードを登録すればいい」と思った被験者がいました。
結局のところ、アカウントや登録情報の深い意味は理解できないまま、説明書の手順に従って作業を進めていたようです。
●スリープモードが悪さをする
今回使用した端末は、何も操作しないでいると画面が暗くなりスリープモードになります。初期状態ではスリープモードになるまでの時間が30秒に設定されているため、説明書を読んでいる間に画面が消えてしまうことがしばしばあり、そのたびに電源ボタンを押し画面のロックを解除しなければならないため、被験者をイライラさせていました。
また、完全にスリープモードに入る前の画面の輝度が落ちただけの状態ではタッチ操作を受け付けるため、意図しないボタンを押してしまうケースが見られました。
●文字入力の本当の難しさとは?
Googleアカウントの取得作業では、当然文字入力が必要となります。今回、文字入力に関わるつまずきはかなり多く見受けられました。
かな、アルファベットを入力するためにキーボードを切り替える方法でも多少のつまずきは観察されましたが、実はそれより、現在かな入力モードなのかアルファベット入力モードなのかという状態の区別がしづらいことの方が大きな問題のようでした。
また、もっと基本的な、どうやってキーボードを表示させるのか、しまうのかというところでもつまずきが見られました。これまでパソコンでも携帯電話でもハードキーしか使ったことがないユーザーにとって、これは当然のことでしょう。
さらに、入力した文字を消す方法で戸惑うケースがありました。今回使用した端末ではバックスペースキーには記号が描かれています。文字を消す機能は、多くの携帯電話では「CLR」「クリア」、パソコンでは「Backspace」「Delete」と表示されているので、そのいずれとも異なる記号を見て、その意味がわからなくてもやむを得ません。
スマートフォンの文字入力の問題としてよく取り上げられるのは、ハードキーではないため手探りでキーを判別できないことや、キーを押し込んだ感触としてのフィードバックが得られないことです。ところが、スマートフォンを初めて購入して最初の設定作業でいきなり本格的な文字入力作業を強いられるとき、ユーザーにとっての問題はもっと別のところにあることが見えてきました。
■感想
最後に、スマートフォンを購入して最初にこのようなスタートアップ作業が必要なことについてどう思うか被験者に尋ねたところ、おおむね許容できるという回答でした。
しかしながら、今回は、どの説明書を参照すればいいか被験者に教えた上で作業を行ってもらいましたが、実際のユーザーはこのような助言なしで作業を行うので、もっと苦労する可能性があります。筆者は、スマートフォンを購入したのに、結局フィーチャーフォンに戻した人がいるという話をきいたことがあります。あるいは、このような設定作業の難しさから自分には使いこなせないと判断したのかもしれません。
ユーザーにとって、新しい製品を使い始める最初の体験は重要です。ここでその製品の印象が決まってしまうこともあります。スマートフォンでは、初期設定後の使いこなしの部分にフォーカスが当たりがちですが、それ以前のハードルをいかに下げるかという部分にも目を向けてみてはいかがでしょうか。